【憧憬と現実】LUMIX S9を購入→手放した話

フルサイズへの憧れ
いつの頃からか、「フルサイズ」という響きに特別な憧れを抱いていた。
写真の表現力が格段に上がり、背景のボケ味はより美しく、暗所での撮影にも強くなる。
そんな魔法のようなイメージが、フルサイズセンサー搭載カメラにはあった。
しかし大抵のフルサイズは大きく、重く、そして高価なので、私のようなアマチュアが気軽に手を出すには少し敷居が高い存在でもあった。
そんな歯痒い思いを抱きながら、見つけたのがパナソニックの「LUMIX S9」である。
驚くほどコンパクトなボディに、フルサイズセンサーを搭載しているという。
まるでAPS-C機のようなサイズ感で、フルサイズの画質が手に入る。
無駄のないボティデザインは洗練されており、カラーバリエーションも豊富だ。
「これだ」と思った。これなら憧れのフルサイズを日常的に持ち歩けるかもしれない。
レビュー動画や作成を掲載した記事などを眺めるたび私の期待は大きく膨らみ、この小さな巨人とも言えるカメラを手に入れることにしたのである。
手にした高揚感と、最初の小さな躓き

実際にLUMIX S9を手に取った時の感動は大きかった。
凝縮感のあるボディは確かにフルサイズ機とは思えないほど小さく、軽い。
質感も良好で、所有する喜びを感じさせてくれた。
手にしたボディを動かすと内部で手ぶれ補正装置がグルングルンと動いているのがわかる。
動画に強いと言われるPanasonic機の技術が詰まっているのだろう。
メニュー操作やレスポンスも軽快で、最新機種らしい快適さがあった。
リアルタイムLUT機能など、クリエイティブな機能も魅力的だった。

しかし、意気揚々と屋外に持ち出し、撮影を始めた時、最初の違和感を覚えた。
それは、ファインダー(EVF)が搭載されていないことによるものだ。
当然ながら、これについては購入前の段階で重々承知していた。
小型化のためには必要な割り切りだと思うし、無ければ無いで特段気にならないと思っていた。
けれど実際に晴天の下で撮影しようとすると、背面モニターは光の反射で見づらく、被写体の細部や構図の確認が難しい場面が少なくなかった。
同じような状況下においてファインダー撮影することに慣れていた私にとって、これは想像以上に大きなストレスとなった。
「慣れれば大丈夫」と自分に言い聞かせたが、撮影の度に感じるこの小さな躓きは、徐々に無視できないものになっていった。
フルサイズ故のジレンマ

S9が抱えるもう一つの問題は、皮肉にもその「フルサイズ」という出自にあった。
フルサイズセンサーの性能を最大限に引き出すには、やはりそれ相応の性能を持つレンズが必要となる。
そして、フルサイズ用のレンズは、一般的に大きく、重いものが多い。

確かにS9のボディは小さい。
しかし、例えば標準ズームレンズや明るい単焦点レンズを装着すると、そのバランスは決して良いとは言えない。
フルサイズ用のレンズでは、大抵の場合フロントヘビーとなってしまう。
それも相まって、当初期待していた「どこへでも気軽に持ち出せる」という感覚からは、少し離れたものになってしまう。
結局バッグの中ではそれなりのスペースを占有するし、首から下げてもズシリとした重さを感じる。
ボディの小ささがもたらすメリットが、ここで結局大きく削がれてしまうのだ。
フルサイズ画質と小型軽量を両立させることの難しさを、私は痛感することになった。

Nikon Z 5Ⅱとの出会い

そんなモヤモヤを抱え始めた頃、私の目に飛び込んできたのが、ニコンのフルサイズミラーレスカメラ「Z5Ⅱ」であった。
LUMIX S9とは対照的に、Z 5はしっかりとしたグリップとファインダーを備えた、いわば王道の一眼レフ。
もちろんS9に比べれば大きく重い。
しかし、スペックや作例を調べるうちに、その堅実な作りと、ニコンならではの自然で深みのある色味に強く惹かれてしまった。

特にピクチャーコントロールなどで表現される、落ち着きがありながらも記憶色に近いような色彩表現は、私が写真に求めているものと合致するように思えた。
派手さはないかもしれないが、長く付き合えそうな安心感がある。
S9のリアルタイムLUTのような先進性も魅力的だが、今の自分には、ファインダーを覗き、じっくりと被写体と向き合い、基本的な画質や色再現性に優れたカメラの方が合っているのではないか。
そう考えるようになっていた。

S9との別れ

LUMIX S9は、決して悪いカメラではない。
むしろ、小型軽量なフルサイズ機というコンセプトは意欲的であり、特定のユーザーにとっては唯一無二の存在となり得るだろう。
リアルタイムLUTをはじめとする機能も、使い方次第で強力な武器になるはずだ。
しかし、私にとっては、ファインダーレスの撮影スタイルが馴染まず、レンズ装着時のトータルサイズと重量のバランスにも疑問を感じてしまった。
そして決定打となったのは、Nikon Z 5という、より自分の感性に響くカメラの存在だった。
熟考の末、私はLUMIX S9を手放すことを決断した。
購入してから、あまりにも短い期間での別れとなってしまった。
期待が大きかっただけに、残念な気持ちはあったが、同時に、今回の経験を通して、自分にとってカメラに求めるものが何なのか、より明確になった気がした。
スペックやコンセプトだけでなく、実際に手に取り、使ってみた際のフィーリングがいかに重要かということを、改めて学んだのである。
カメラ選びは、常に「最適解」を探す旅のようなものだ。
LUMIX S9は、その旅の途中で出会った、印象深い一台であったことは間違いない。この経験を糧に、私はまた新たなカメラを探し始めるだろう。
今度こそ、長く付き合える一台に出会えることを願って。
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